雨がしとしと。
空には暗雲が覆っていて、時間の割に暗い、時刻は五時二十四分の下校時間、8時間授業のためこんなにも遅い。
雨はまだぱらぱらとしか降っていないがあと少ししたら本格的に降り始めるだろう。
アスファルトに水溜まりが出来ている、みんなは傘を差して帰っていく、けど傘を忘れた私はそんな風景を見ながら下駄箱の周辺に立っている。
はぁ~~~
放課後になってから何度目かになるため息。
少し前に一つ下の寂しげな顔をした一つ下の男子生徒が「貸しましょうか?」と、傘を差しだしてきたのだが断ってしまったのだ、なぜあの時に遠慮して借りていなかったのか、それを思い出すたびにため息が出る。
ふ~~~~
どんどんうつむいてくるよ
朝の占いのラッキーアイテムの折りたたみ傘を信じてればよかった、というか天気予報を見ていればな~。
はぁ~~~~~
「もし」
はい?
「傘、貸しましょうか」
視線を上げれば微笑みながら私にたたまれた傘を差しだしている男子生徒、その人は少し前に傘を差しだしてくれた人だった。
嗚呼、これで濡れずに家まで帰れる、だけど私の口からは反射的に「そんないいですよ、別に」と出てきていた。
違うだろ、借りなきゃ借りなきゃ、借りろよあたし、反射的にそんなことが飛び出る口が憎たらしいぃぃぃぃ。
「遠慮せずに借りて下さい、俺にはもういらない物ですから」
にっこりと微笑んでおかしな事を言う。
「傘がいらないってどういう事ですか?
見たところもう一つ持っているようには見えませんが?」
傘どころか鞄も持ってない。
「気にしないで下さい、そのままの意味ですから」
ハイ、と言って傘を渡してきたので、なら借りますね、と言い受け取った、
「借りますけど良いのですか? みたところ、お連れの方もいらっしゃらないようですが?」
他の場所で友達が待ってくれているのだろうか、だけどさっきは一人だったのに
「いいですよ、もうすぐで迎えに車が来ますから」
周りの喧噪が遠のいてゆく
「車が迎えに来るなんて、裕福なんですね」
私と目の前の人の声しか聞こえなくなっていた
「いや、いたって普通の家ですよ、それに今日だけですよ」
遠くから救急車の音だけがやけに大きく聞こえてくる
「ではどうして、今日は迎えが?」
「それは…」
何か言いにくい理由でもあるのだろう、うつむいて押し黙ってしまった。
なぜか話しかけれなくなり救急車のサイレンだけが響いていた。
その沈黙を破るかのように一人の男子生徒が傘も差さずに校舎の中に駆け込んだ。
まぁ車が来るのなら別にいいでしょ
「迎えはもうすぐで来るのでしょ、その間はどうするのです?」
「えっ、あ、いやお構いなく、それじゃ、俺はいきますね」
「ええ。
傘、ありがとね、今度何かお礼をしないとね」
「そんなお礼なんていいですよ、後藤先輩。
先輩とお話が出来て嬉しかったです、それだけで十分ですから。」
そういうとニコッと笑いくるりと体の向きを変え雨の中を走っていってしまった、その後ろ姿は人影にまみれて、すぐにその姿は見えなくなっていた。
けどあの子はどうして私の名前を知っていたのだろう
まあいいや速く帰ろう、けどこの傘かたいな、開かない
もしかして騙された!
もしかしてこれを遠くから見て笑ってるの!
可愛い顔して、あいつめ~
絶対開けてやる!
周りから力を入れているということをさとられないようにばれないよう、ばれないように
んぐーーっ!?っと、
開いた。
だけど…
何、この傘?
骨が全部おれてるじゃない
穴も開いてるし
それになんだろ
何か
赤い物 ?がついてる
思考を巡らしている間にも救急車のサイレンが近づいてくる
この音は、とても不愉快だ、
ありもしない事を頭の中に思い浮かべてしまう。
そんな音より、そんな思考より
この傘についた赤い物が気になっていた
少し前は傘を開いた状態で差し出してくれたのだ
そのときにはこの傘は普通の傘だったのだ
骨が折れていることや
穴が開いていることがただの嫌がらせなら…
だからこの赤い物が、ただの赤い物なら
私のこの頭に思い浮かぶ考えはただの想像ということに
だけど、救急車の音はどんどん大きくなっていく
早くこんな気分から逃れたい、
だから私は赤い物を指に付け
赤い物をにおった…
だけど、そのかおりは
私の頭の、不愉快な考えを肯定するように…
鉄のような臭いがしていた…